▼PTIはがん発生メカニズムに関与  ▼炎症による発がんプロセス  ▼NF-κBは炎症による発がんにおける中心的役割を果たす  ▼炎症による発がんにおけるSTAT3の役割

 

Ⅵ. 腫瘍促進性炎症(pro-tumor inflammation:PTI)による腫瘍形成

 

PTIはがん発生メカニズムに関与

PTIは、発がんプロセスを促進し、抗腫瘍免疫応答を抑制することにより、がん発生を可能にします。

PTIによる発がんプロセスの促進機序(図1
  突然変異、ゲノム不安定性、およびエピジェネティック修飾による発がんイニシエーションの促進1,2)
  がん細胞/がん前駆細胞の増殖と生存の促進1,2)
  血管新生の促進2,3)
  がん細胞の他の組織への浸潤や転移の促進4)

 

炎症による発がんプロセス

炎症から発がんに至るには外因性と内因性の2つの経路があり、いずれも転写因子NF-κB、STAT3、およびHIF-1などの転写因子を活性化させます5-8)図2)。
  外因性経路(TME駆動型):炎症または感染によりTME内に浸潤した炎症細胞より引き起こされる経路9)
  内因性経路(がん遺伝子駆動型):細胞内のがん遺伝子(Myc、Ras、RET)の活性化により、炎症性サイトカインの産生を誘導する経路10,11)
がん細胞の転写因子が活性化すると、炎症性メディエーターの産生、免疫細胞の動員・活性化が引き起こされ、免疫応答が増幅されます7)
これによりPTIが起こり、下記のような複数の発がんプロセスが生じ、腫瘍形成が促進されます。
  がん細胞/がん前駆細胞の増殖と生存の促進1,2)
  免疫抑制12-14)
  血管新生の促進2,3)
  がん細胞の他の組織への浸潤や転移の促進4,15)

 

NF-κBは炎症による発がんにおける中心的役割を果たす

NF-κBとSTAT3は、炎症による腫瘍形成促進作用に重要な役割を果たす調節因子です(図316-18)

NF-κBは、炎症時にTNFやIL-1などの炎症性サイトカインにより活性化される転写因子で、最も一般的なのはp50とp65で形成されるヘテロダイマーです。
NF-κBは、炎症性サイトカイン(TNF、IL-1)および炎症促進性分子(IL-6、ケモカイン、COX-2、5-リポキシゲナーゼ、マトリックスメタロプロテアーゼ[MMP]、血管内皮細胞増殖因子[VEGF]など)の発現を調節しています16,18)図3左)。
NF-κBは一般にがん細胞で活性化され、様々な標的遺伝子を誘導して内因性腫瘍プロモーターとして機能します1,4,15)図3右)。
  悪性化した細胞の細胞死の阻害
  腫瘍浸潤細胞による炎症性サイトカインの産生を刺激
  がん細胞の浸潤性と転移性の獲得に重要な、細胞周期、細胞死、上皮間葉転換(EMT)に関連する遺伝子の発現を調節4)
  腫瘍形成や悪性度の高い表現型獲得に関連する様々な細胞変化(増殖シグナルの自己産生、増殖抑制への非感受性、アポトーシス回避、継続的な増殖、血管新生、組織浸潤および転移)を誘導11)
NF-κBを介した炎症は、腫瘍抑制因子であるp53や、NF-κBの抑制性制御因子であるTIR8/SIGIRRの欠失と関連することも知られています19,20)
NF-κBは、クロストークによってSTAT3やp53などの多くのシグナル伝達経路に影響を及ぼします18)

 

炎症による発がんにおけるSTAT3の役割

STAT3は、多くのサイトカイン、ホルモン、および成長因子の下流にある転写因子です。
STAT3は、cyclin D1/2、c-Myc、MCL1、survivin、BCL-XL、HGF、HIF-1α、およびVEGFなどの遺伝子の発現を制御することにより、発がんプロセス(がん細胞の増殖、アポトーシスの回避、血管新生など)を促進します17)図3左)。
STAT3は、様々な機序により免疫逃避機構を促進します17)図4)。
  がん細胞でのSTAT3活性化(STAT3のリン酸化[pSTAT3])により、IL-6・IL-10・VEGFなどの発がん因子が発現し、これらは免疫細胞のSTAT3を活性化します。
  がん細胞でのSTAT3活性化が免疫に及ぼす作用には、抗腫瘍反応の抑制と腫瘍促進作用の増強があります。

 

  抗腫瘍反応の抑制:
    NK細胞およびCD8+T細胞の細胞傷害作用を低下
    樹状細胞(DC)の成熟および抗原提示能を阻害
    がん細胞でSTAT3が活性化するとPD-L1発現が増加し、これによりCD8+T細胞の細胞傷害活性が低下
    がん細胞でSTAT3が活性化するとMHCクラスⅠ発現*が増加し、これによりNK細胞の細胞傷害活性が低下
    *NK細胞には、自己のMHCクラスIを認識することにより抑制性シグナルを伝達し、正常な自己細胞に対する攻撃を防止する機構が備わっています。

 

  腫瘍促進作用の増強:
    骨髄由来抑制細胞(MDSC)やマクロファージでのSTAT3活性化は、VEGFなどの発がん因子を発現させ、がん細胞のSTAT3のさらなる活性化を引き起こし、がん細胞増殖を促進
    MDSCでのSTAT3活性化は、MDSCの生存を促進
    マクロファージでのSTAT3活性化は、M2マクロファージへの極性化を誘導
    TMEへの制御性T細胞(Treg)の集積を促進、Tregへの分化を刺激17)

 

非小細胞肺がん(NSCLC)患者の研究で、STAT3のリン酸化レベルが高い(=STAT3活性化レベルが高い)ほど病期が進行しており、血管新生が盛んに行われ、予後不良であることが報告されています17)

 

References
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8) Multhoff G, et al. Front Immunol. 2012;2:98.
9) Colotta F, et al. Carcinogenesis. 2009;30(7):1073-1081.
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11) Allavena P, et al. Curr Opin Genet Dev. 2008;18(1):3-10.
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16) Aggarwal BB, et al. Curr Opin Pharmacol. 2009;9(4):351-369.
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20) Riva F, et al. Front Immunol. 2012;3:322.

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