▼推奨事項のまとめ  

 

慢性移植片対宿主病の臨床研究実施に関する米国国立衛生研究所のコンセンサス:
IIa. 臨床における実践と早期診断ワーキンググループの報告
National Institutes of Health Consensus Development Project on Criteria for Clinical Trials in Chronic Graft-versus-Host Disease:
IIa. The 2020 Clinical Implementation and Early Diagnosis Working Group Report

Kitko CL, Pidala J, Schoemans HM, et al.
Transplant Cell Ther. 2021 Jul;27(7):545-557.
doi: 10.1016/j.jtct.2021.03.033.

 

重症化リスクの高い慢性移植片対宿主病(GVHD)の兆候および初期症状をどのように把握するかは依然として課題である。米国国立衛生研究所(NIH)が2005年、2014年に示した慢性GVHDの臨床研究に関するコンセンサスは、GVHDの診断精度の向上と重症度評価の改善に寄与したが、日常診療で広く使用されているとは言い難かった。さらに、NIHの診断基準を満たしている患者の多くはすでに重症化し、不可逆的な臓器傷害を生じている可能性がある。

本プロジェクトの目的は、臨床における慢性GVHDの早期発見率の向上を目指したNIH診断ガイドライン最新版の日常の移植治療への適用に関するコンセンサスを示すことと、慢性GVHDの早期発見に有用な包括的あるいは臓器特異的な臨床検査値、評価指標の新規開発を目指した臨床研究の実施方針を示すこと、の2点である。

 

推奨事項のまとめ

  1. 臨床における慢性GVHD早期発見のためには、造血細胞移植(HCT)に関わる非移植専門スタッフ、患者、介護者の積極的な介入、遠隔医療システム(遠隔での受診)、遠隔診療支援システム(専門医同士のカンファレンス)、アプリケーション、報告ツールなどの電子医療技術の利用促進が求められる。
  2. 慢性GVHD重篤化に関連する兆候、初期症状、他の診断基準を明らかにする必要がある。慢性GVHDの早期診断には、移植の専門知識を有する医師による移植前から移植後のフォローアップ期間を通じた正確な診断と経過観察のための慎重かつ継続的な評価が求められる。
  3. 慢性GVHDに対する先制治療の可能性の評価において早期より利用可能な評価指標を同定するため、転帰を予測しうる血液中、組織中、体液中のバイオマーカー、画像所見、機能テストに関する研究が求められる。

2014年のNIH診断基準を実臨床に組み入れることにより慢性GVHDの早期診断が可能になると期待されたが、診断前に不可逆的な臓器傷害が生じる場合もあり、2014年の診断基準には限界があった。今回示した慢性GVHD早期発見のための包括的指標または臓器特異的指標の同定を目的とした臨床研究の実施によって、より早期の診断が可能となれば、中等症~重症の慢性GVHD患者の転帰を改善することができると考えられる。

本コンセンサスでは、慢性GVHDの早期発見の指標として全身症状だけではなく、臓器特異的な症状や検査値の検討も推奨している。具体的には重症化に関与するとされる皮膚および筋膜、眼、肺に特異的な症状や検査所見が検討の候補に挙げられ、検討した指標の評価時には、各領域の専門医へのコンサルトを行うことを推奨している。特に眼病変、生殖器病変の診断は難しく、他科へのコンサルトが重要である。

慢性GVHDの早期発見に有用な指標の同定を目的とした縦断観察研究を計画する場合、慢性GVHDを発症する前に患者を登録し、血液中や組織中のバイオマーカー、重症度評価のための介入などについて様々な母集団を対象に検討を行うことが望ましい。これらの臨床研究は有用な知見を得るのに数年を要するため、3年以内に開始する必要がある。

今後、慢性GVHDの早期の特徴が同定され、より重篤な症状への進行を高い精度で予測できれば、慢性GVHDの先制治療に関する臨床研究が可能になると考えられる。これにより、慢性GVHDの罹患率が低下し、再発や感染症などの潜在的リスクが抑制され、移植成績の向上に繋がることが期待される。

 

Excerpted from Transplant Cell Ther., 27(7), Kitko CL, et al., National Institutes of Health Consensus Development Project on Criteria for Clinical Trials in Chronic Graft-versus-Host Disease: IIa. The 2020 Clinical Implementation and Early Diagnosis Working Group Report, 545-557, © 2021 The American Society for Transplantation and Cellular Therapy, with permission from Elsevier.

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