▼要旨  ▼結果  

 

慢性移植片対宿主病患者の心的状態とQOLは、コーピングと心理社会的要因の影響を受ける
Coping and Modifiable Psychosocial Factors are Associated with Mood and Quality of Life in Patients with Chronic Graft-versus-Host Disease

Jacobs JM, Fishman S, Sommer R, et al.
Biol Blood Marrow Transplant. 2019;25(11):2234-2242.
doi: 10.1016/j.bbmt.2019.06.024.

 

Key Points

  • 慢性移植片対宿主病(GVHD)患者の3分の1に、臨床的に重要な抑うつまたは不安症が認められています。
  • 心的状態は、GVHD疾病負荷、コーピング(ストレスへの対処の仕方)、身体機能と関連しています。
  • コーピング、症状、身体機能および社会的援助は経時的なQOLと関連性がみられます。
  • GVHD患者の心的状態とQOL改善に向けて、心理社会的な介入の検討が必要と考えられます。

 

要旨

慢性GVHDは同種造血幹細胞移植(HCT)後において、最も頻度が高い合併症の1つであり、罹病と非再発死亡の最も重大な要因です。筆者らは、中等症から重症の慢性GVHDと診断され、同種HCT施行後に生存している成人患者52例を、大学病院にて実施された前向き縦断研究に登録し(2015年7月~2017年7月)、HADS評価による抑うつおよび不安症の発症率および相関関係を検討しました。また、コーピング、GVHD疾病負荷、身体機能、患者本人が認識できている社会的援助などの構成要素が、ベースライン時・3ヵ月時・6ヵ月時の経時的なQOL変化を予測できるか否かについて検討しました。

解析は、年齢、性別、慢性GVHDの重症度、慢性GVHD診断からの期間で調整しました。ベースライン時、3ヵ月時、6ヵ月時において、臨床的に重要な抑うつを認めた患者はそれぞれ32.7%、31.1%、37.8%、臨床的に不安症が強くなった患者は30.8%、20.0%、36.4%でした。共変量を調整後、ネガティブな感情指向型コーピングの頻度が多いこと(β=0.20、p=0.002)、課題指向型コーピングの頻度が少ないこと(β=-0.10、p=0.021)、身体機能の悪化(β=-0.07、p=0.004)およびGVHD疾病負荷が大きいこと(β=0.07、p=0.002)は、ベースライン時の抑うつとの関連性が認められました。また、ネガティブな感情指向型コーピングの頻度が多いこと(β=0.28、p<0.001)および身体機能の悪化(β=-0.05、p=0.034)は、ベースライン時の不安との関連性が認められました。経時的なQOL不良が認められた患者では、ベースライン時に「ネガティブな感情指向型コーピングの頻度が多い(β=-0.58、p=0.035)」「課題指向型コーピング(β=0.40、p=0.028)および社会的援助希求型コーピング(β=0.35、p=0.039)の頻度が少ない」「GVHD疾病負荷が大きい(β=-0.30、p=0.001)」「身体機能の悪化を認める(β=0.32、p<0.001)」「社会的援助の認知度が低い(β=6.47、p=0.003)」といった特徴がみられました(解析方法はいずれも線形混合効果モデル)。

慢性GVHD患者のアンメットな身体的・心理社会的ニーズが大きいことから、筆者らは、QOLや心的状態を改善し得るエビデンスに基づいた介入方法の検討が必要であり、本研究で同定された修正可能な心理社会的要素が標的として考えられると結論づけました。

 

結果

慢性GVHD患者において、抑うつはベースライン時32.7%(17/52例)、3ヵ月時31.1%(14/45例)、6ヵ月時37.8%(17/45例)、不安症はそれぞれ30.1%(16/52例)、20.0%(9/45例)、36.4%(16/44例)に認められました(臨床的に重要な抑うつ・不安症はHADSスコア≧8と定義、図1)。

 

図1 臨床的に重要な抑うつ・不安症を有するGVHD患者の割合

図1 臨床的に重要な抑うつ・不安症を有するGVHD患者の割合

Reprinted from Biol Blood Marrow Transplant., 25, Jacobs JM, et al. Coping and Modifiable Psychosocial Factors are Associated with Mood and Quality of Life in Patients with Chronic Graft-versus-Host Disease, 2234-2242, © 2019 American Society for Transplantation and Cellular Therapy. Published by Elsevier Inc., with permission from Elsevier.

 

回避型コーピングとQOLとの間に有意な関連性は認められませんでした(図2)。回避型コーピングの下位尺度のうち、社会的援助希求型コーピングの頻度が少ないことと経時的なQOL不良との間には関連性が認められましたが、気晴らし型コーピングの頻度とQOLとの間に有意な関連性は認められませんでした(図2)。

 

図2 ベースライン時の回避型コーピングの頻度(多い vs. 少ない)とQOLの関係性の経時変化

図2 ベースライン時の回避型コーピングの頻度(多い vs. 少ない)とQOLの関係性の経時変化

(A)ベースライン時の回避型コーピングの頻度が少ないことは経時的なQOL不良をわずかに予測する。(B)ベースライン時の社会的援助希求型コーピングの頻度が少ないことは経時的なQOL不良を予測する。(C)ベースライン時の気晴らし型コーピングの頻度は経時的なQOLを予測しない。これらの図では、ベースライン時の各コーピング頻度を高い場合と低い場合に分け、中央値で示した。

Reprinted from Biol Blood Marrow Transplant., 25, Jacobs JM, et al. Coping and Modifiable Psychosocial Factors are Associated with Mood and Quality of Life in Patients with Chronic Graft-versus-Host Disease, 2234-2242, © 2019 American Society for Transplantation and Cellular Therapy. Published by Elsevier Inc., with permission from Elsevier.

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