▼背景 ▼対象・方法 ▼患者特性 ▼結果 ▼結論
慢性移植片対宿主病の既往が移植後のQOLに及ぼす影響
Resolved versus Active Chronic Graft-versus-Host Disease: Impact on Post-Transplantation Quality of Life
Kurosawa S, Yamaguchi T, Oshima K, et al.
Biol Blood Marrow Transplant. 2019 Sep;25(9):1851-1858.
doi: 10.1016/j.bbmt.2019.05.016. Epub 2019
Key Points
- ✓同種造血幹細胞移植(allo-HCT)後の慢性移植片対宿主病(GVHD)の既往があるものの回復し、現在症状が認められない患者ではQOLの低下は認められませんでした。
- ✓慢性GVHDから回復した患者のQOLは、allo-HCT後にGVHDを発症しなかった患者と同程度でした。
背景
近年、同種造血幹細胞移植(allo-HCT)の治療成績の向上によって生存者数が増加しており、長期的なサバイバーシップケアの重要性が注目されています。特に、allo-HCT後の慢性移植片対宿主病(GVHD)は、症状が軽度であってもallo-HCTサバイバーのQOLを低下させることが知られています。しかし、慢性GVHDの既往はあるものの回復し、現時点で症状がない患者のQOL評価は行われてきませんでした。そこで筆者らは、2012年12月から2014年9月までに、国内の47施設を受診したallo-HCT施行外来患者を対象として、慢性GVHDによるQOL低下が、慢性GVHD回復後も持続しているか否かを評価しました。
対象・方法
対象の主な選択基準は、1995年から2009年までに血液疾患のためallo-HCTを施行した患者、移植時年齢16歳以上の患者、調査時年齢20歳以上の患者、allo-HCT後の無再発生存期間が3年で、調査時点で再発していない患者などでした。
インフォームドコンセント取得後1ヵ月以内に患者アンケート調査を実施し、SF-36(ver.2)の「身体的側面のQOLサマリースコア(PCS)」、「精神的側面のQOLサマリースコア(MCS)」、「役割/社会的側面のQOLサマリースコア(RCS)」、FACT-BMT(ver.4.0)の「FACT-BMT General」、「FACT-BMT Trial Outcome Index(TOI)」、「FACT-BMT総スコア」、100ポイントの視覚的評価スケール(VAS)(0:最悪の健康状態、100:最良の健康状態)を用いてQOLを評価しました。調査時点での慢性GVHDの状態は米国国立衛生研究所(NIH)の基準を用いて担当医が評価し、インフォームドコンセント取得日または3ヵ月以内の臨床情報を提供してもらいました。すべてのスケールで、スコアが高いほどQOLが高いことを示します。また、GVHD既往の有無や移植前の患者特性は日本造血細胞移植データセンターの移植登録一元管理プログラム(TRUMP)のデータベースから抽出しました。
SF-36およびFACT-BMTのスコアの算出には、標準的なアルゴリズムを用いました。多変量モデルを構築し、調査時年齢、性別、血液疾患の種類、allo-HCT後期間、ドナーの種類、前処置レジメンの種類、GVHD予防の種類、移植時のPS、移植回数などを含む共変量で調整し、QOLスコアと就労状況との関連性を検討しました。補正後のSF-36スコアの平均値は同じ共変量で補正後、国民標準値に基づいたスコアリング(日本人一般集団の平均スコア50±10)として得ました。
患者特性
解析対象1,130例のベースラインの患者特性は、移植時の年齢中央値43歳、調査時の年齢中央値51歳、男性52%、allo-HCT後期間中央値7.1年、ドナーの種類は血縁骨髄22%、血縁末梢血21%、非血縁骨髄40%、非血縁臍帯血17%などでした。
調査時点で、745例(66%)に活動性の慢性GVHD(活動性GVHD群)が認められました(軽度342例、中等度297例、重度106例)。また、385例には慢性GVHDは認められず、そのうち149例(13%)は慢性GVHDの既往があり回復した患者(回復GVHD群)、236例(21%)はallo-HCT後に慢性GVHDの発症は認められなかった生存者でした(非GVHD群)。活動性GVHD群は他の2群と比較して、移植時年齢および調査時年齢が高齢で、血縁末梢血からの移植割合および骨髄破壊的レジメン以外の前処置の施行割合が高率でした。移植後7年以上生存している患者割合は、活動性GVHD群50%、非GVHD群50%に対して回復GVHD群では64%と高率でした。また、調査時点における免疫抑制薬の服薬率は、活動性GVHD群の31%に対して、非GVHD群および回復GVHD群は各1%でした。
結果
補正後のQOL平均スコアは、QOLドメインのほとんどにおいて非GVHD群で最も高く、SF-36のPCS、MCS、RCSに関しては一般集団と同程度か高値を示しました。また、回復GVHD群のQOLスコアは非GVHD群と同程度であり、有意な群間差は認められませんでした(図、表)。活動性GVHD群のQOLスコアはすべてのドメインにおいて最も低値で、非GVHD群との間に有意差が認められました(p<0.001、多変量解析)。また、MCSおよびRCSを除くすべてのドメインに関して最小変化量(MCID:0.5SD)を達成しました。MCSを除くすべてのドメインにおいて、回復GVHD群のQOLスコアは活動性GVHD群と比較して高く(p<0.001、多変量解析)、PCS、TOI、FACT-BMT総スコアに関してはMCIDを達成しました。
また、50歳を層別値として年齢別のサブグループ解析を実施しました。50歳未満の患者グループと50歳以上の患者グループを比較すると、QOLスコアの差が最も大きかったのは回復GVHD群のPCSとVASでしたが、統計学的な有意差は認められませんでした。
図 慢性GVHDの状態別のSF-36、FACT-BMT General、FACT-BMT TOI、FACT-BMT総スコア、VASの補正後の平均スコア
Adjusted mean SF-36 summary scores, FACT-BMT General, TOI, and total scores, and VAS scores by chronic GVHD status. QOL scores adjusted for background covariates are presented according to the 3 chronic GVHD status groups: no GVHD, n = 236; resolved GVHD, n = 149; and active GVHD, n = 745. The mean SF-36 summary score of 50 in the general population is indicated by the vertical dotted lines. MCID are indicated by asterisks.
Reprinted from Biol Blood Marrow Transplant., 25, Kurosawa S, et al. Resolved versus Active Chronic Graft-versus-Host Disease:
Impact on Post-Transplantation Quality of Life, 1851-1858, © 2019 American Society for Transplantation and Cellular Therapy. Published by Elsevier Inc., with permission from Elsevier.
表 慢性GVHDの状態別にQOLを検討した多変量モデル
QOL indicates quality of life; GVHD, graft-versus-host disease; SF-36, the MOS 36-Item Short-Form Health Survey; FACT-BMT, Functional Assessment of Cancer Therapy-BMT; VAS, visual analogue scale.
The estimate represents the difference in QOL scores between the two groups. A negative difference indicates that the group on the left has a lower QOL score (inferior QOL).
*The differences reached clinical significance.
Reprinted from Biol Blood Marrow Transplant., 25, Kurosawa S, et al. Resolved versus Active Chronic Graft-versus-Host Disease:
Impact on Post-Transplantation Quality of Life, 1851-1858, © 2019 American Society for Transplantation and Cellular Therapy. Published by Elsevier Inc., with permission from Elsevier.
結論
今回の調査結果から、慢性GVHDの既往があっても現在は症状がない患者では、過去のGVHDによるQOLへの影響は小さく、GVHDから回復した患者のQOLは慢性GVHDを発症しなかった生存者と同程度であることが示されました。