同種造血幹細胞移植と移植片対宿主病
第1章 移植第2章 GVHD病態
▼造血幹細胞 ▼造血幹細胞移植 ▼適応患者・適応疾患
- 主に骨髄に存在し、赤血球、白血球、血小板をつくる血球細胞の元となります。
- 全ての血球に分化する多分化能と自己と同じ細胞を複製する自己複製能を兼ね備えており、造血はこの2つの機能で調節されています。
- 多分化能と自己複製能により、常に再生され、一生を通じて造血機能が枯渇することはありません。
造血幹細胞の特徴
日本造血・免疫細胞療法学会 ホームページより https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=2
- 患者血液をドナー血液に置換することで、正常造血能、免疫能の回復をもたらす治療です。
- 造血器腫瘍に対しては、移植前処置によって腫瘍を根絶させ、ドナー細胞の免疫が再構築することにより、再発を予防する側面もあります。
- 同種造血幹細胞は難治性血液疾患の治癒が期待できます。
造血幹細胞移植
一般社団法人 日本血液学会 編集. 血液専門医テキスト 改訂第3版, p145, 南江堂, 2019.
- 適応患者1-3)
- 症状や臓器機能を含む全身状態の評価を行い、疾患や病期、患者年齢、HCT-CI(Hematopoietic CellTransplantation-Comorbidity Index)などで個々のリスクを考え、移植適応を検討します。
- 骨髄非破壊的移植前処置の普及により、高齢者への移植適応が拡大しています。
- 高齢者の移植適応については、若年者に比べて再発率の増加やQOLの低下が予想されるため、認知力、日常生活関連動作を含めた高齢者機能評価を行ったうえで移植適応を判断する必要があります。
- 適応疾患3,4)
- 多くが腫瘍性疾患ですが、非腫瘍性疾患も適応になります。
- 適応の推奨は疾患ごとに、予後分類や病期により異なります。
- 腫瘍性疾患と非腫瘍性疾患は、移植前処置の方法やGVHDの制御が異なることに加え、ドナー選定も疾患により特別な注意が必要になります。
<腫瘍性疾患>3)
- 急性骨髄性白血病(AML)
- 急性前骨髄球性白血病(APL)
- 急性リンパ性白血病(ALL)
- 慢性骨髄性白血病(CML)
- 骨髄異形成症候群(MDS)
- 悪性リンパ腫
- 多発性骨髄腫(MM)
- びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)
- 濾胞性リンパ腫(FL)
- マントル細胞リンパ腫(MCL)
- Hodgkinリンパ腫(HL)
- 末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)
- 成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)
など
<非腫瘍性疾患>3)
- 再生不良性貧血(AA)
- 血球貪食性リンパ組織球症(HLH)
- 先天性骨髄不全症
- 先天性免疫不全症
など
1)神田 善伸. 造血幹細胞移植診療マニュアル, p4, 南江堂,2015.
2)豊嶋 崇徳.日本輸血細胞治療学会誌2020; 66: 3-6.
3)一般社団法人 日本血液学会 編集. 血液専門医テキスト 改訂第3版, p145-148, 南江堂, 2019.
4)矢野 晋正. 日本造血細胞移植学会誌. 2016; 5: 1-12.
▼造血幹細胞移植の種類 ▼骨髄破壊的移植(フル移植) ▼骨髄非破壊的移植(ミニ移植) ▼造血幹細胞の由来:自家移植・同種移植 ▼HLA適合とドナーソース ▼HLA(Human Leukocyte Antigen) ▼移植種類別の特徴
- 造血幹細胞移植は、移植前処置の種類、患者とドナーとの関係性、移植に使用する細胞などに分類されます。
- 移植の種類の選択は原疾患によって異なります。
造血幹細胞移植の種類
がん情報サービス ホームページより https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/HSCT/hsct01.html
- 同種造血幹細胞移植における全身放射線照射を含む前処置と大量化学療法を主体とする前処置に大別されます。
- 骨髄破壊的前処置(MAC)を用いた移植であり、フル移植とも呼ばれています。
移植前処置の具体的な方法
日本造血・免疫細胞療法学会 ホームページより https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=16
平成30学会年度日本造血細胞移植学会ガイドライン委員会 編集.
造血細胞移植ガイドライン 移植前処置(第2版), p2,6, 日本造血・免疫細胞療法学会, 2020.
- 移植前処置の免疫抑制効果を保持し、抗腫瘍効果が減弱することを許容して、前処置関連毒性を軽減させることを目的としています。
- 強度減弱前処置(RIC)、骨髄非破壊的前処置(NMA)を用いた移植であり、ミニ移植とも呼ばれています。
移植前処置の具体的な方法
日本造血・免疫細胞療法学会 ホームページより https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=16
平成30学会年度日本造血細胞移植学会ガイドライン委員会 編集.
造血細胞移植ガイドライン 移植前処置(第2版), p6, 日本造血・免疫細胞療法学会, 2020.
- 自家移植(autoHSCT)
- 患者自身の造血幹細胞をあらかじめ採取して凍結保存し、大量化学療法による移植前処置後に造血幹細胞を移植する方法です。移植前処置は骨髄破壊的移植の方法をとるフル移植が一般的です。
<メリット>
- 免疫反応に関連した合併症であるGVHDや拒絶のリスクがない
- ドナーを探す必要がなく、患者の状態(年齢、全身状態、疾患、病期など)のみで移植の可否や時期が決められる
<デメリット>
- 自己の造血幹細胞の中に腫瘍細胞が混入している可能性がある
- 同種免疫による抗腫瘍効果(GVL、GVT効果)は期待できず、再発が多い
- 同種移植(alloHSCT)
- ドナー候補として、患者の白血球の型(HLA)の一致が高いドナーを見つけ、造血細胞を提供してもらう方法です。患者血液をドナー血液に置換することで、正常な造血能や免疫能の回復を図ります。
<メリット>
- GVL、GVT効果が期待できる
- 難治性血液疾患の治癒が期待できる
<デメリット>
- 再発・GVHDのリスクがあり、移植関連死亡は10~30%ほど認められる
- 慢性GVHDなどの晩期合併症で、QOLが低下する可能性がある
- 予防的に免疫抑制薬を使うため、感染症にかかりやすくなる
- 非血縁者間でHLAが適合する確率は極めて低く、ドナーが見つからないこともあり、移植に急を要する疾患には向かない
一般社団法人 日本血液学会 編集. 血液専門医テキスト 改訂第3版. p145, p168, 南江堂, 2019.
- ドナーの選択
- 同種造血幹細胞移植では、HLA適合度およびドナーソースが移植成績に影響を与えます。
- HLA適合度より第一選択は、同胞・血縁者です。
適合しない場合は、第二選択として骨髄バンクで非血縁者でHLA適合者を探します。
それでも適合しない場合や移植を急ぐ場合は、第三選択として部分的な適合者を候補とします。 - <HLA適合度>
- HLAの適合・不適合はHLA抗原レベルの違いで血清学的に区別できます。
- HLAの不適合度が高いほうが、拒絶と重症GVHDのリスクが増大します。
- 拒絶よりGVHDのほうがリスクが高いため、GVHD方向の不適合が重視されます。
一般的なドナー選択の優先順位
日本造血・免疫細胞療法学会 ホームページより https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=13
一般社団法人 日本血液学会 編集. 血液専門医テキスト 改訂第3版. p150-151, 南江堂, 2019.
- レシピエントがドナーと同じ表面抗原をもたない場合、移植片は拒絶されますが、HLAはこの現象において、最も重要な役割を担います1)。
- HLAのミスマッチが多いほど、GVHDや死亡のリスクが高くなります2)。
移植で重要なHLA
同胞の4種類のHLA
1)Pritchard DJ., Korf BR. 著, 古関 明彦 監訳. 一目でわかる臨床遺伝学 第2版. P163-165, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2014.
2)Morishima Y. et al.: Blood. 2015; 125:1189-1197.
3)神田 善伸. 日本造血細胞移植学会雑誌. 2012; 1: 66-75.
4)European Bioinformatics InstituteによるIMGT/HLAデータベースより https://www.ebi.ac.uk/ipd/imgt/hla/about/statistics/ 2021年12月参照
▼移植の流れ ▼移植関連合併症 ▼移植関連合併症:GVHD(Graft Versus Host Disease) ▼移植関連合併症:感染症 ▼移植関連合併症:SOS/VOD ▼移植関連合併症:晩期合併症 ▼移植後長期フォローアップ(LTFU:Long Term Follow Up)外来
- 造血幹細胞移植は、主に移植前処置、移植、移植後管理という流れに沿って行われます。
- 移植前より移植後まで輸血、感染症対策、口腔ケアなどの支持療法も患者の状態により検討されます1)。
造血幹細胞移植の流れ
1)日本造血・免疫細胞療法学会 ホームページ 支持療法より https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=72
2)日本造血・免疫細胞療法学会 ホームページ 移植前検査より https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=11
- 移植後には移植からの時期に応じ、さまざまな移植関連合併症が起こる可能性があります。
- 早期:移植後~生着(0~30日)
- 中期:生着後(30~100日)
- 後期:生着後(100日~)
- 晩期:1年以上経過してから起こる合併症
副作用・合併症の発現時期
がん情報サービス ホームページより https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/HSCT/hsct03.html
- 同種造血幹細胞移植時に輸注されるドナーのリンパ球が患者の組織・臓器を攻撃する免疫反応です。
- 同種造血幹細胞移植患者の10~30%はGVHD関連合併症で死亡するため、GVHDの予防と治療は移植成績向上に重要です。
GVHDの分類
*移植あるいはドナーリンパ球輸注施行日からの日数
「高見 昭良:第Ⅶ章 造血幹細胞移植 4. 同種造血幹細胞移植:GVHD,GVL効果, 血液専門医テキスト, 改訂第3版(日本血液学会編), p157, 2019, 南江堂」より許諾を得て転載.
- 造血幹細胞移植後は、移植前の処置による粘膜障害に免疫抑制薬の使用が加わると、感染症が発症しやすく、発症後は重症化しやすいとされています。
同種造血幹細胞移植時に問題となる感染症
「日髙道弘, 田口喜子:感染症, 造血幹細胞移植の看護(河野文夫監修, 日髙道弘, 高尾珠江編集), 改訂第2版, p.70, 2014, 南江堂」より許諾を得て改変し転載.
- 多くは造血幹細胞移植後3週間以内の比較的早期に生じる重篤な合併症です1) 。
- 診断は臨床的な徴候である有痛性肝腫大、総ビリルビンの増加、腹水貯留を伴う体重増加によりなされます1) 。
- 重症の場合は多臓器不全を合併し、死亡率は80%以上となります2) 。
※SOSに関する詳細は造血細胞移植ガイドライン SOS/TA-TMA
https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/01_06_06_sos_ta-tma.pdf を参照してください。
SOS/VODの病態
1)平成28学会年度日本造血細胞移植学会ガイドライン委員会 編集. 造血細胞移植ガイドライン SOS/TA-TMA. p2, 日本造血・免疫細胞療法移植学会, 2017.
2)菊田 敦 他 日本造血細胞移植学会誌 5(4): 124-137, 2016.
- 晩期合併症は患者の長期的なQOLに影響を与え、慢性GVHDの発症はQOLの低下と深く関与しています。
主な晩期合併症の特徴と対策
<感染症>
- 特徴:移植後1~2年に多いが、免疫回復が遅延するとさらに後期の感染症が増加する
真菌感染症ではアスペルギルス症が最も多く、ウイルス感染ではサイトメガロウイルス感染症が増加している - 対策:抗菌薬、抗ウイルス薬の予防投与、CMVのモニタリング、不活化ワクチン接種など
<眼合併症>
- 特徴:sicca症候群による角結膜炎、白内障、虚血性微小血管性網膜症は慢性GVHD患者の40~60%に発症する
- 対策:移植後6ヵ月、1年後以降、毎年1回ずつの眼症状評価、眼科専門医による視覚検査、眼底検査など
<骨格系合併症>
- 特徴:高齢、女性、低体重、活動性低下、移植前後のステロイド長期投与などが危険因子となる
- 対策:骨量低下予防のための運動、ビタミンD、Caの補充、卵巣ホルモン補充(女性)など
<内分泌系合併症>
- 特徴:内分泌腺の異常で好発するのは甲状腺異常であり、性腺機能不全は多くの患者で生じる
- 対策:移植後1年後以降、毎年1回ずつの甲状腺機能検査(TSH、T3、fT4)など
<二次がん>
- 特徴:放射線照射、免疫抑制剤の長期あるいは高用量使用、慢性GVHDが危険因子となる
特に口腔、肝臓、脳・中枢神経、甲状腺、骨、軟部組織、皮膚黒色腫での発症率が高くなる - 対策:若年患者では極力放射線照射を避ける、早期発見のためのスクリーニング検査、禁煙、紫外線曝露の回避など
神田 善伸. 造血幹細胞移植診療マニュアル. P176-185, 南江堂, 2015.