▼背景  ▼方法・結果  ▼結論  ▼本研究の限界  ▼利益相反  

 

真性多血症患者における静脈血栓症の新たな予測因子―リンパ球に対する好中球の比
Neutrophil-to-lymphocyte ratio is a novel predictor of venous thrombosis in polycythemia vera

Carobbio A, Vannucchi AM, De Stefano V, et al.
Blood Cancer J. 2022; 12(2): 28.
doi: 10.1038/s41408-022-00625-5.

 

Key Points

  • 真性多血症患者における血栓症発現の予測因子としての、リンパ球に対する好中球の比(NLR)の可能性を検討しました。
  • 真性多血症患者における静脈血栓症のリスク因子として、NLR≧5が同定されました。
  • 従来の標準的なリスク分類にNLRを追加することで、真性多血症患者の予後予測能が向上することが示唆されました。

 

背景

真性多血症患者では血栓症の合併がしばしば認められます1)。血栓形成は活性化した好中球により促進される2)一方、血栓溶解はリンパ球の制御性T細胞によって促進される3,4)ことが報告されています。このため、リンパ球に対する好中球の比であるNLRは、血栓形成において機能的に相反する2種類の血球を統合した指標であり、心血管イベントの予測に活用できるかもしれません。本研究では、真性多血症患者を前向きに中央値3年にわたって追跡したECLAP(European Collaborative Low-dose Aspirin)試験5)のデータベースを用いて、NLRが真性多血症患者における静脈および動脈血栓イベントの予測因子となり得るかを検討しました。

 

方法・結果

ECLAP試験に登録された真性多血症患者のうち、ベースライン時のNLRの算出が可能な1,508例を解析対象としました。追跡期間中央値2.51年において、160例(10.6%)で166件の血栓イベント(動脈血栓症82件、静脈血栓症84件)が認められました。

一般化加法モデル(GAM)に基づく回帰分析により、総白血球、好中球、リンパ球、血小板の数およびNLRと、血栓症発現リスクとの関連を評価した結果、静脈血栓症リスクと、ベースライン時の好中球数の高値(中央値6.8×109/L、p=0.002)とリンパ球数の低値(中央値1.4×109/L、p=0.001)、つまりNLR高値(中央値5.1、p=0.002)の条件との間には有意な相関が認められました。なお、好中球・リンパ球の各血球数と比較して、これらを統合したNLRを用いた方が、推定リスクの95%CIの範囲が狭くなり、静脈血栓症発現の予測精度が向上することが示されました。年齢、性別、血栓症既往歴、ベースライン時の治療を共変量とした多変量Cox回帰分析からは、静脈血栓症発現の独立したリスク因子として、静脈血栓イベントの既往(HR 5.43、95%CI 3.48~8.46、p<0.001)およびNLR≧5(HR 2.14、95%CI 1.38~3.30、p=0.001)が同定されました()。

 

 全静脈血栓症および深部静脈血栓症±肺塞栓症の予測因子

表 全静脈血栓症および深部静脈血栓症±肺塞栓症の予測因子

検定法:多変量Cox回帰分析

© The Author(s) 2022. Carobbio A, et al. Blood Cancer J. 2022 Feb 10;12(2):28. This article is published with open access at nature.com. Creative Commons Attribution 4.0 International License

 

さらに、従来の標準的なリスク分類(年齢および血栓症の既往)にNLR≧5を追加してHarrellのC統計量を算出したところ、従来のリスク分類で59.24%、NLR追加で65.09%であり、NLRを加えることで予測精度が向上することが示唆されました。

また、従来の標準的なリスク分類における低リスク群、高リスク群のいずれにおいても、NLR≧5の場合はNLR<5の場合と比較して、静脈血栓症の発現リスクは約2倍となることが示されました(図B)。本研究で確認されたNLRと静脈血栓症を発現していない生存期間の関係性(図A)は、イタリアの2つの独立した外部検証コホート(フィレンツェ、n=282およびローマ、n=175)においても示されました(図C、D)。

 

 NLR値別の静脈血栓症を発現していない生存期間(Kaplan-Meier解析)

図 NLR値別の静脈血栓症を発現していない生存期間(Kaplan-Meier解析)

ECLAP試験の学習コホート(全体[A]および標準的なリスク分類による層別[B])と真性多血症患者を対象とした2つの外部検証コホート(フィレンツェ[C]およびローマ[D])の結果を示す。検定法:ログランク検定

© The Author(s) 2022. Carobbio A, et al. Blood Cancer J. 2022 Feb 10;12(2):28. This article is published with open access at nature.com. Creative Commons Attribution 4.0 International License.

 

結論

本研究より得られた臨床的知見は、自然免疫細胞が静脈血栓症の発現に関与するという基礎医学的な知見を支持しており、NLRが簡便な静脈血栓症の予後予測マーカーとなり得ることが示されました。

 

本研究の限界

PVSG診断基準6)により診断された患者を対象にして、他の目的のために臨床試験で収集されたデータを用いた事後解析であることが挙げられます。

 

利益相反

ノバルティスを含む企業から顧問料または講演料を受けた著者が含まれています。

 

参考文献
1) Tefferi A, et al. Leukemia. 2021; 35(12): 3339-3351.
2) Engelmann B, Massberg S. Nat Rev Immunol. 2013; 13(1): 34‒45.
3) Shahneh F, et al. Blood. 2021; 137(11): 1517-1526.
4) van Os B, Lutgens E. Blood. 2021; 137(11): 1441-1442.
5) Marchioli R, et al. J Clin Oncol. 2005; 23(10): 2224-2232.
6) Berk PD, et al. Semin Hematol. 1986; 23(2): 132-143.

 

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